Technique-600THz

前夜すべて

10.8

赤蜻蛉を見た。

 

用事があったのでとある街へ行く。空と街並みが同じ灰色なだけでなく、同じくらいの押し込めた重さを持っている。曇天すぎやしないか。帰り道は寒くて暗くて、家に帰った後も明日もやることはあって時間は進んでいくのに、自分の歩いているこの瞬間だけに集中してしまい、心細くなんかなったりして、自分の家に誰も居ないことに軽く傷ついた。本当は人と暮らせる訳がないのでこれは虚構の傷つきだけれど。今この瞬間の自己に、よくない形で集中してしまうとセカイ系の亜種みたいになってしまうので、散漫さを無理やり打ち立てながら帰った。

 

別に今に始まったわけではなく、常にどこを見ても世の中は地獄であるので、ここで生きていくためには何かひとつ、確かなものが欲しい。自分のための、自分にしか役に立たないものでもそれがあればどうにか自暴自棄にならず踏ん張っていられる、そういうもの。それを掴むために頑張るには人の精神というものは脆すぎて、即席でも思い込みでもいいからまず手元に置いておきたい。星を目指す間も、今ある自分を立て直すための星を手中に納めて置く必要がある。いずれ金平糖になろうとも(その時はまたその先の星を掴むのである)。